2002年11月


「旅で覚えたアジア的シンプル生活術」
向山昌子 朝日新聞社

 いい家朝日.comで連載中の同名作品をまとめたもの。タイトルの通り、アジアの知恵としてのシンプルな生活をまとめたもので、アジア好きとしてはそれぞれ共感出来る。
 一個の石鹸の生活、アジア型のワンルーム、間取りなんてもういらない、ソファを持たない生活、少ないお金で暮す幸せ、などなど。キリムイカット好きとしては布マニアの著者の好みがまた共感出来る。


「ダスト」
- Dust - Charles Pellegrino
チャールズ・ペレグリーノ 白石朗訳

 ロングアイランドに埃のような微小生物"ダスト"が大量発生し住民を襲っていく。主人公の古生物学者リチャード・シンクレア、彼が属するブルックヘイヴン国立研究所も問題解決に取り組むが、やがて世界各地で蝿や蝶が激減、ダニや蜘蛛が大量発生。世界各地で生態系が崩壊していく…。

 単純なバイオ・サスペンスと思いきや、もっと壮大な人類絶滅の話。それも恐竜絶滅の謎、DNAレベルの時限爆弾、3300万年の周期的絶滅、ゲノムの意思疎通などなど、様々なアイデアに溢れている。しかし、それが上手く物語に仕上がっていないし、やや長く、様々なエピソードが練り切れていないのが残念。設定としては壮大で、SF的マインドに溢れたもの。アイデアは抜群、物語は二流。

「ジュラシック・パーク」で使われた琥珀中の中生代吸血昆虫から恐竜のDNAを得るアイデアは、著者ペレグリーノが「オムニ」に書いた特集記事「恐竜のタイムカプセル」が元になっていが、クライトンは正式にそれを表明していないらしい。


「ルーシーの膝」
- Le Genou de Lucy - Yves Coppens
イブ・コパン 馬場悠男&奈良貴史訳 紀伊国屋書店

 著者はパリのコレージュ・ドゥ・フランス高等研究機関、古人類学・先史学教授イヴ・コパン。コパンを含む調査隊が発見した300万年前の世界最古の女性の化石ルーシー、このほぼ完璧な状態の人骨が人類への進化における二足歩行の重要性を示し、それが題名になっている。
この直立二足歩行は、アフリカ大地溝帯東側の乾燥化により森林が草原となり食性が変わった「イーストサイド・ストーリ」という仮説をコパンは唱えている。
各仮説が入り乱れ、素人にはなかなか判りにくい。この本での主張は判るが様々な反証も有り、実際はどうなのと短絡的に問いたくなる(^^;)。


「コード・トゥ・ゼロ」
- Code to Zero - Ken Follet
ケン・フォレット 戸田裕之訳 小学館

 1958年、駅のトイレで、すべての記憶を無くし目覚めた主人公。失われた記憶を必死にたどるルーク・ルーカスは、まさにケープ・カナベラで打ち上げられようとしている米国最初の人工衛星のスパイ戦へと関係していく…。

 冒頭で記憶喪失から目覚める主人公というのが、「診断」から続いてしまったが、こちらは純粋な冒険活劇。ウォレットと言えば「針の眼」が思い出されるがやはりスパイ戦。しかし、書き込みも薄っぺらで、単純に楽しむにはいいのだけど物語に深みがまったく無い。場当たり的な展開の仕方が、昔のアドベンチャーゲームを連想させる。敵味方の二組の男女の絡み方がもうちょっと上手ければ面白くはなったのに。


「診断」
- The Diagnosis - Alan Lightman
アラン・ライトマン 高瀬素子訳 早川書房

 主人公ビル・チャーマーズはボストンの情報処理会社のエリート社員。出勤都州の地下鉄車内で突然記憶喪失に、自分の名前も忘れ裸で携帯電話を抱いて横たわっているところを保護される。ビルの妻のメリッサはインターネットでバーチャル不倫を楽しみ、オンラインの大学講座を楽しむ息子のアレクサンダーは父親とメールでやり取りをする…。

 アラン・ライトマンは携帯電話が大嫌いだとか。この物語を単なる現代社会のアンチテーゼとして読んでしまうと、なんとも薄っぺらい感じはする。軽く読んでしまったのでなんか消化不良な感じ。
 物語の中でアレクサンダーが受けている講座が、なんとも面白い。死を達観したソクラテス、それを告発した英雄アニュトスは息子に憎まれ、その従僕ピュリアスはアニュトスを心から親愛する。この寓話に物語の真意があるのかと思ったが、なんか読み解く程の力が無かった。


「美食家列伝」
文芸春秋「ノーサイド」編 文春ネスコ

 作家、俳優、歌人、映画監督など文化人で美食として有名な人々のエピソードをまとめたモノ。ウナギ好きで鰻聖と呼ばれた斉藤茂吉を始め、永井荷風、斎藤茂吉、井伏鱒二、向田邦子、開高健などなど。しかし、それぞれの人間は面白いにしても、"それを食べてみたい"と思わせるような話はなかった。食べ物よりは、人に焦点が当たっている本か。食に対する哲学が様々な事であるのは確かか。


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