2002年12月


「蒼い虚空」☆
- The BLue Nowhere -
ジェフリー・ディーヴァー 土屋晃訳 文春文庫

護身術HPの主催者がシリコン・ヴァレーで惨殺死体で発見される。犯人は連続殺人鬼フェイトことジョン・パトリック・ホロウェイ。他人になりすますソーシャル・エンジニアリングを得意とするフェイトは巧み被害者に近づいていく。コンピュータ犯罪科のアンダーソン刑事はサンノゼ矯正施設の伝説的ハッカーのジレットの協力を要請する…。

ディーヴァーの新作とあって期待大。個人的にはかなり面白かったが。コンピュータ専門の話が多く、そこが巧みに話の厚みを増している。この辺は、リンカーン・シリーズの科学捜査を判りやすく話に盛り込んでいる様に素人に受け入れられると思う。
個人的にはこのコンピュータの蘊蓄についてはかなり面白い。古い話はスティーブン・レビーのノンフィクション「ハッカーズ」(名作)みたい。何しろクラッカーとハッカーを明確に分けているのが偉い。

ディーヴァーの得意の引っ張り方である謎の設定、今回はショーンが実は誰かがポイントだが、これは判らない…考えても判らないと断言してしまおう(引っ掛けが多すぎかも^^;)。


「バターはどこへ溶けた?」
- Where Has My Butter Gone? - Dean Ripplewood
ディーン・リップルウッド 吉沢深雪イラスト 道出版

「チーズはどこへ消えた?」のパロディ本、というか内容的にはアンチ本。内容どころか装丁が余りに似ているので告訴されたようだが。
登場人物は二匹の猫と二匹の狐、求めるモノはバター(バターは金や権力や名誉などの欲望の対象の象徴、実に判りやすい)。ほんのちょっとした寓話(まとめまであって判りやす過ぎ)。

最後のタマの格言としては"たしかなものなどない"、"心から楽しめ"、"移りゆく物事のすばらしさを知れ"、"足をとめてしっかり自分を見つめよ"、"自分らしくあれ"、"清貧の志を持て"、"ありふれた幸せに気づけ"。最初に老子の「上善水如」を引用している様に、老荘思想、道教的。個人的には、「チーズ…」よりは「バター…」の方がしっくりくる。

著者は英語名だが翻訳モノでは無い、日本人である可能性が大。Ripplewoodだから並木(波木)?。


「PLATONIC SEX」
飯島愛 小学館文庫

 映画「プラトニック・セックス」の原作という点で興味があったが、タレント手記ブームの中での想定以上の異常とも言える売れ行きは不思議だった。今更ながら読んでみる。
 小学生時代の厳格な父、厳しい躾、家出、補導、彼氏の家での同棲生活、ラブホテル生活、16歳でアパートでの同棲生活、カラオケスナックのバイトからホステス、ディスコ遊び、AV女優、ギルガメ出演、そして親との和解…。

 読んでいると飯島愛という人間を前提として読んでしまうが、タレント本とはそういうモノか。経験としては時々面白い部分もあるが、全体では共感出来る部分は少なく面白くは無かった。最終的には親と和解かあ、という所もちょっと平凡な気がした。それでも、この本がベストセラーになるという現実には何か学ぶべき事がある…だろう。
 映画とはストーリも印象もかなり違うが、現実感という意味で原作の方が遥かに優れている。

映画「プラトニック・セックス」感想


「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」
- Harry Potter and The Goblet of Fire - J.K
J.K.ローリング 松岡佑子訳、静山社

 「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」の続編、第四巻。今回は上下巻でかなりの厚さ。
ハリーの傷跡の痛み、クィディッチ・ワールドカップに空に上がる不吉な印と、ヴォルデモートの復活の恐れが迫る。ホグワーツ魔法学校では三大魔法学校対抗試合が行われ、炎のゴブレットによりハリーが選手に選出され、死を招く難題を乗り越えていく事に…。

 新しい登場人物、日刊預言者新聞のゴッシップ記者リータ・スキーター、教師マッド・アイ・ムーディは物語の展開に面白みを加えている。ハーマイオニーのしもべ妖精解放戦線、親友のロンとの諍いも学園モノとしての味付けとしていい。しかし、やはり長すぎる。特にクィディッチ・ワールドカップは時期的にFIFAワールドカップに合わせたのだろうけど、もっと大幅にカットしても良かったように思う。


「セルフコントロール」
原野広太郎 講談社現代新書

 交感神経の緊張が筋の緊張を生み、筋の緊張が神経の緊張を生むという悪循環、これによる血液循環の悪化、肩の凝り、不安感、恐怖感が生まれる。この悪循環を逆にするリラクセイション方法セルフコントロールとして自己暗示訓練法、バイオフィードバック訓練法、事故弛緩訓練法を紹介する。内容的には理論より実践的で役に立つ。著者の臨床的経験から導かれている所が多い。


「グリーン・アイス」
- Green Ice - Raoul Whitfield
R.ホイットフィールド 新藤純子訳 小学館

 クラシック・クライム・コレクションという事で、埋もれていたこのハードボイルドを小学館が発掘したらしい。舞台は1930年のニューヨーク、近郊のシンシン刑務所を出所した元記者の主人公マル・アーニー、迎えに来たかつての恋人のドット・エリスがすぐ殺され、友人ワート・ドナーも殺される。謎を追い求め、クラブ経営者エンジェルのエメラルド、グリーン・アイスを巡る争いの巻き込まれる…。

 なんかよく判らない話でどんどん展開していくと、どんどん死体の山が築かれていく。驚くほどみんな簡単に死ぬ。まるで感情移入している隙も無い、どんどん死ぬ。ミステリー創世記の作品とは言え、余りに粗っぽい。新刊で出すなら、それなりに作品の位置を明確にして欲しいもんだ。


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